信頼と責任 前田かずお 公式サイト

「日露平和条約と北方領土の返還」(外交)

2020.03.17

船中八策

 令和の時代に入り早一年が経過しようとしていますが、北方領土返還の可能性は一進一退の状態が続いています。

本来であれば昭和の時代に決着をみるべきだった、この「昭和の遺物」ともいえる最大の戦後未処理事案が平成の時代が終わり、令和の時代に入って決着するとしたら、これは歴史の不思議と言えます。

これまで安倍総理とロシアのプーチン大統領は二十回以上の直接会談を重ね、お互いの胆力を量りながら、信頼関係を醸成してきました。

中国の脅威の増大により、日本はアメリカ、ロシア、インドと言った環太平洋主要国と連携を取りつつ、国際秩序の変更を目論む中国を抑え込んでいかねば国の存続に関わるといった状勢となってきました。

これはロシアにとっても危機感を共有するところであり、これまで利害関係において中国と密接な関わりをもってきたロシアが、中国との間合いを見直し、日本との接近を図ることが国益に適うとの考え方に変わってきた可能性があります。

 

一昨年秋にロシア・ウラジオストクで行われた極東経済フォーラムにおいて、中国の習近平国家主席が同じく壇上にいる中で、安倍総理に対し日露平和条約締結を急ぐよう提案をしたプーチン大統領は、口では「今、思いついたのだが」と前置きをしながらも実は周到な準備を経て、乾坤一擲放ったのが、北方領土の返還を前提としない平和条約締結の提案ではなかったかと思います。

 

1956年の日ソ共同宣言を基礎として交渉を進めるとは、色丹、歯舞の二島を日本に返還して平和条約を結び、国後、択捉についてはその帰属を協議する、というものです。

中国の脅威を考えれば、日本にとって本当は、北方領土の帰属問題とは別の次元で平和条約締結を急ぐことが真の国益に適う判断なのですが、北方領土の問題があるがゆえにこの重要な平和条約が結べないできたところがあります。

今後、日ソ共同宣言に沿った交渉が進められた場合、日本国内から二島返還反対論が起きてくることが予想されますが、それは唱える人自身が、できっこないとわかっていて主張しているのですから無責任というしかありません。

相当な反対論を国内的には立憲民主党や共産党、左翼のマスコミなどは展開してくるでしょうが、ここは国民の常識を信じてこの交渉を前に進めていくことだと思います。

 

むしろ国内的説得が難しいのはロシアの方です。

日露平和条約の締結はロシアと中国の間に楔を打ち込むことになり、ロシア内の親中派はこれをよしとはしませんし、それ以上に、実行支配下にある領土を他国に明け渡すことに対し、ロシアの一般の国民はどう反応するかです。

日本にとっては4島のうちまずは2島が還り、さらに中国包囲網を形成する上で不可欠な日露平和条約を結ぶことは、間違いなく国益に適っています。

プーチンというロシアにおける稀代の強力なリーダーの存在があるからこそ、この交渉のテーブルが用意されたといえます。

 

そして日露の平和条約は、実は日本とロシアだけで結べるものではありません。

日本は国際関係においては現実問題として、アメリカの意向を無視することはできません。

それが戦後、日本が置かれてきた実態であり、半独立国・半従属国と言われる所以ですが、今、このタイミングで日本とロシアが平和条約の交渉に入ったということは、この動きをアメリカ・トランプ大統領が是認しているということです。

アメリカもまた、東アジアにおける中国の覇権主義に対して、アメリカ・ロシア・日本が連携して封じ込みを図る必要があるとみていると言えます。

針の穴に糸を通すような困難な問題ですが、今後の交渉の推移を見守っていきたいものです。

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